台風のニュースを見て「今年もそろそろ」と思いつつ、家の備えは去年のままという方は多いのではないでしょうか。筆者(現役の電気工事士・でんきや慎ちゃん)も、台風接近のたびにお客様から「モバイルバッテリー、今から買っても間に合いますか」と聞かれることがあります。結論から言うと、停電への備えで一番後回しにされがちなのが「電気」まわりです。今回は、モバイルバッテリーとポータブル電源の違い・必要な容量の目安・選び方の落とし穴を、電気屋の視点で事前準備編として整理します。停電後の通電火災など被災後の注意点は範囲が広いため、今回は台風が来る前にやっておきたい準備に絞ります。
停電になったとき、本当に困ることの優先順位
停電を経験したことがない方ほど、「懐中電灯があれば大丈夫」と考えがちです。しかし実際に困る順番は、多くの場合「情報>照明>冷蔵」になります。台風の進路や避難情報が分からない不安は、真っ暗な部屋より先にストレスになりますし、スマホが使えないと家族の安否確認もできません。照明は懐中電灯やランタンで最低限しのげますが、情報収集の手段(スマホ・ラジオ)だけは電池切れにできないというのが、電気を扱う仕事をしてきた筆者の実感です。冷蔵庫は電気がなくても数時間は保冷できるため、優先順位としては最後になります。
この「情報を最優先で確保する」という考え方を軸に置くと、モバイルバッテリーやポータブル電源に何を求めるべきかが見えてきます。
モバイルバッテリーとポータブル電源はどう違う?容量表示(mAh・Wh)の読み方
家電量販店の店頭でよく聞かれるのが「モバイルバッテリーとポータブル電源、何が違うんですか」という質問です。ざっくり言うと、モバイルバッテリーはスマホなど小型機器の充電専用、ポータブル電源はコンセント(AC100V)が使えて、扇風機や小型冷蔵庫まで動かせる「持ち運べる蓄電池」というイメージです。
容量表示もモバイルバッテリーは「mAh」、ポータブル電源は「Wh」で表記されることが多く、単位が違うため単純比較ができません。目安として、Wh(ワットアワー)はおおむね「mAh × 電圧(リチウムイオン電池は約3.7V)÷ 1000」で換算できます。例えば10,000mAhのモバイルバッテリーは、10,000×3.7÷1000=約37Whに相当します。スマホのバッテリー容量は機種にもよりますが4,000mAh前後(約15Wh)が目安で、モバイルバッテリーからスマホへの充電は電力の変換ロスがあるため、実際にフル充電できる回数は計算上の数値より少なくなる(目安として7〜8割程度)と考えておくと安心です。10,000mAhクラスなら、スマホをおよそ1.5〜2回分フル充電できる計算になります。
家族の人数別・必要容量の目安
「結局どれくらいの容量を買えばいいのか」は、家族構成と何を動かしたいかで変わります。あくまで目安ですが、電気屋としての経験も踏まえると次のように整理できます。
| 用途 | 容量の目安 | できること |
|---|---|---|
| 一人暮らし・スマホ充電中心 | モバイルバッテリー 10,000〜20,000mAh | スマホを2〜4回分充電、数日の情報確保 |
| 3〜4人家族・照明とスマホ | ポータブル電源 300〜500Wh | LEDランタン・スマホ複数台・扇風機を1〜2日程度 |
| 小型冷蔵庫や在宅ワーク機器も | ポータブル電源 700〜1,000Wh | 小型冷蔵庫・ノートPC・Wi-Fiルーターなどを断続的に |
| 長時間の停電に備えたい | ポータブル電源 1,500Wh以上 | 複数の家電を組み合わせて数日単位の備え |
家庭全体の備えとして、常時給電できる無停電電源装置(UPS)を導入する選択肢もあります。パソコンやルーターなど「停電の瞬間に切れると困る機器」向けの選び方はオムロン BW55T UPSの実機検証で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
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ポータブル電源選びの落とし穴|「定格出力W」を見落とすと動かせない
ポータブル電源選びで一番の落とし穴になりやすいのが「容量(Wh)」だけを見て、「出力(W)」を確認しないまま買ってしまうケースです。容量は「どれだけ長く使えるか」の指標ですが、出力は「同時にどれだけの電力を取り出せるか」の指標で、まったく別物です。
特に注意したいのが、エアコンや冷蔵庫のようにモーターを使う家電です。これらは動き始める瞬間に、通常運転時の消費電力の数倍にあたる「起動電力」を必要とします。消費電力50W程度の冷蔵庫でも、起動の瞬間には200〜350W程度を要求することがあり、定格出力が低いポータブル電源では、コンセントに挿した瞬間に給電が止まってしまうこともあります。カタログの「定格出力」に加えて、「瞬間最大出力」の数値も確認し、動かしたい家電の消費電力に対して2〜3割程度の余裕を見て選ぶのが安心です。
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満充電のタイミングは「台風接近予報」のとき
モバイルバッテリーもポータブル電源も、リチウムイオン電池は自然放電するため、押し入れにしまいっぱなしでは実際に必要なときに満充電になっていないことがあります。台風シーズンに入ったら月イチで充電残量を確認する、あるいは台風の接近予報が出た時点で満充電にしておく、というタイミングを家族内で決めておくと安心です。停電はいつ起きるか予測しづらいものですが、台風は進路予報があるぶん、備えるタイミングを事前に決めやすい災害でもあります。
モバイルバッテリーの発火事故にも要注意
製品評価技術基盤機構(NITE)は2026年7月にも改めて注意喚起を出しており、2021年度から2025年度の5年間に通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故2,140件のうち、モバイルバッテリーが製品別で最も多いこと、事故件数が気温上昇とともに増加し8月にピークを迎える傾向にあることを公表しています。防災用に買ったモバイルバッテリーが、いざという時に発火リスクの原因になっては本末転倒です。経済産業省・NITEが呼びかける「正しく購入する(連絡先が確かなメーカー・販売店から購入し、リコール対象でないか確認)」「正しく使用する(高温下に放置しない、強い衝撃を与えない)」「正しく対処する(異常を感じたらすぐ使用を中止する)」の3点は、防災用の備蓄品としても徹底しておきたいところです。長期間しまいっぱなしにする前に、本体に膨張や変色がないかも定期的にチェックしましょう。
停電時にやってはいけないこと|発電機とCO中毒・通電火災
ポータブル電源とあわせて携帯発電機の導入を検討する方もいると思いますが、消費者庁は、停電時の発電機を屋内や換気の悪い場所で使用すると一酸化炭素(CO)中毒の危険があるとして、絶対に屋内で使用しないよう繰り返し注意喚起しています。車内やテント内での使用も同様に危険です。また、停電から復旧したタイミングで起きる「通電火災」にも注意が必要で、避難する際はブレーカーを落としておく、使用中の電気ストーブなどの暖房器具は停電中に電源プラグを抜いておくといった対応が呼びかけられています。停電の原因そのものについては夏にブレーカーが落ちる原因の記事、雷を伴う台風で分電盤を守りたい場合は避雷器を後付けした実体験の記事もあわせて参考にしてください。
情報収集の備えも忘れずに|災害用伝言ダイヤル171
スマホの充電手段を確保したら、あわせて知っておきたいのが「災害用伝言ダイヤル(171)」です。総務省・NTTが提供するサービスで、大規模災害時に171へ電話をかけ、ガイダンスに従って伝言の録音・再生ができます。毎月1日・15日や、防災週間(8月30日〜9月5日)には体験利用ができるので、実際に使い方を試しておくと、いざというときに慌てずに済みます。スマホが圏外や電池切れでも、公衆電話や避難所の災害時用公衆電話からも利用できる点も覚えておきたいポイントです。
よくある質問(FAQ)
Q. モバイルバッテリーとポータブル電源、どちらか一つなら何を買うべきですか?
A. 一人暮らしや家族の人数が少なく、スマホの充電さえ確保できればよいという場合はモバイルバッテリーで十分です。家族が多い、照明や扇風機・小型冷蔵庫も動かしたいという場合はポータブル電源を検討する価値があります。まずは「情報を確保できる容量」を最低ラインにするのがおすすめです。
Q. ポータブル電源でエアコンは動かせますか?
A. 起動時に定格消費電力の数倍の電力を要求するため、家庭用エアコンの多くは一般的な家庭向けポータブル電源では動かせないか、動いてもごく短時間になります。エアコンを動かしたい場合は、製品ページの「対応家電」欄や、起動電力(瞬間最大出力)に対応しているかをメーカーに確認してから購入してください。
Q. モバイルバッテリーはどれくらいの頻度で充電を確認すればいいですか?
A. リチウムイオン電池は自然放電するため、月に1回程度は残量を確認し、半分以下になっていたら継ぎ足し充電しておくのがおすすめです。台風シーズン(8〜9月)に入ったら、接近予報が出た時点で満充電にしておく習慣をつけておくと安心です。
まとめ
台風・停電への備えは、モバイルバッテリーとポータブル電源の違いを理解し、家族構成に合った容量を選ぶところから始まる。モバイルバッテリーはmAh、ポータブル電源はWhで容量が表記され、換算すればおおよその充電回数が計算できる。ポータブル電源は容量(Wh)だけでなく出力(W)、特にエアコンや冷蔵庫の起動電力に対応した「瞬間最大出力」も確認しておきたい。NITEは2026年もモバイルバッテリーの発火事故への注意を呼びかけており、防災用の備蓄品こそ信頼できるメーカーから正しく購入・保管することが大切だ。あわせて発電機の屋内使用によるCO中毒、停電復旧時の通電火災にも注意し、災害用伝言ダイヤル(171)のような情報収集の手段も確認しておくと、台風シーズンをより安心して迎えられる。
防災シリーズとして、他の記事もあわせてどうぞ。停電時にも安定して電源を確保したい場合はオムロン BW55T UPSの実機検証、夏にブレーカーが落ちる原因については夏にブレーカーが落ちる原因の記事、雷から分電盤を守る方法は避雷器を後付けした実体験の記事、帰省時の実家家電の点検については実家の家電もチェックしてくださいの記事もご覧ください。
※本記事は、消費者庁「停電時の発電機によるCO中毒や、復旧後の通電火災に注意!」、製品評価技術基盤機構(NITE)「『夏バテ(夏のバッテリー)』にご注意を」(2026年7月発表)、一般財団法人家電製品協会(AEHA)「家電製品の災害時の注意点」、総務省・NTT東日本/西日本の災害用伝言ダイヤル(171)案内、内閣府防災の「防災の日」関連情報、各ポータブル電源メーカー公式の出力に関する解説をもとに、2026年7月執筆時点で確認した内容です。個別の製品が対応可能かどうかは、必ずメーカー公式サイトでご確認ください。
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